遠距離介護 交通費 ”ずしり” 公的支援なし

地方に住む親の介護に、都市部から子どもが通う。そんな「遠距離介護」が増える中、当事者にとって重い負担となるのが往復の交通費だ。

介護目的の割引制度があるのは航空路線のみ。当事者は節約を重ねながら、行き来を続けている。(杉戸祐子)

「交通費負担は帰省の障壁になりますね」。東京都杉並区のファイナンシャルプランナー河村修一さん(46)は約十年前から月一回のペースで、故郷山口県内で暮らす七十代の両親のもとに帰省している。

母は脳卒中の後遺症で要介護5の認定を受け、老人保健施設に入っている。父は自宅にいるが「地域との関わりがない上、判断能力が落ちているようで心配」と、都内に住む兄(47)と分担して様子を見に通う。

よく利用するのは航空会社の早期割引。普通運賃は片道約三万五千円だが、早く予約すれば一万円台に抑えられる。介護に特化した「介護帰省割引」は二万数千円なので早期割引の方が安い。

「予定を立てて帰る時は早期割引、急に駆けつける時は介護割引と使い分ける」。他に宿泊とセットになった旅行会社のパッケージツアーが安ければ利用する。

両親を東京に呼び寄せようとしたが、父の賛同を得られなかった。河村さんは「両親の状態が安定している時期は帰る頻度を減らす。長く続くので計画的に考えないと」と語る。

介護保険などの公的制度に遠距離介護の交通費支援はない。帰省の足のうち、航空路線では全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)などが割引制度を導入している。

ANAの場合、対象は要介護・要支援と認定された人の二親等以内の親族など。ほぼ全路線で基本料金の35%引き。二〇一一年度は約二万六千人が登録し、約一万五千人が利用した。

主な鉄道路線、高速道路に介護帰省に特化した割引制度はない。そこで、二百一キロ以上の利用で割引を受けられる「大人の休日倶楽部」(JR東日本)などに入会したり、株主優待券やパッケージツアーを活用して出費を抑える人もいる。

年代的に子の教育費や住宅ローンなどの負担を抱えながら、帰省の交通費を捻出しているのが実態だ。

遠距離介護をテーマに活動するNPO法人「パオッコ」の調査(子世代二百十七人が回答)で、困りごとで最も多かったのは交通費。理事長の太田差恵子さんは「親が介護施設にいても、急な体調不良などで駆けつけないといけない場面はある。

費用は確実にかさむ」と指摘する。

◆「負担は親」が理想

相続などに詳しい行政書士・社会福祉士の竹本美恵子さんは「できれば親自身が負担する形が良い」と提案する。親子の経済状況によるが、太田さんも「親が負担する例は少なくない。

特に実の親の介護に通う娘の交通費を親が負担することは多い」。竹本さんは「介護が必要になる前に家族で話し合い、親の経済状況を把握した上で決めておいて」と助言する。

増える遠距離介護。交通費負担をあくまで「自助」と位置付けるのか、それとも社会で支えるのか、議論が必要だ。

東京新聞   2012年08月01日の記事です。